空飛びたこ

アーカイブ - 記録 詞 書き散らし

海と爪先

 

2015  歌詞 

生まれてはじめてしっかり作詞作曲ということに取り組んでできた代物が出てきたので記録。+回想

 

 

夜は広がるまま月長石を染めて

みじめな歌に帷を降ろす

閉じたふたつの目と枯れたひとつの花に

水面の街の灯りを引いて

波は火酒のようにあなたの傷を洗い

見上げた胡蝶が船にとまる

羅針の指す空と舶刀と砂の日へかざす六分儀

青いベリル

小さな望遠鏡からわたしを見つけて

天球に七つの星 鳩を追う狩人と

あなたの胸に咲く薔薇の赤色が

いつまでもいつまでも続けばよかった

光を教えて この海の底まで

孤独に舵を取り かかとは北を向く

この魔法を解いて 明日に憩う前に

ここから連れ出して どこまでも遠くへ

la

木星に恋を秘め抜ける洞窟の上

櫂を繰る老人を羨んだ

春の夢の名残が爪先に滲めば

水面の街の灯りが消える

生まれては還るのね 深い寄る辺 軋む音

あんな夕陽がどれだけ沈んでも足りないのに

林檎を落とす木や浮かぶ木の栓を

それでも苦しいほど確かに探していた

宝の島にやさしい雨が降り

世界の果ての日に言葉も無くしたら

宴の後に舞え しとど愛を謳え

涙も灯火も呑み干して手を取ろう

光を教えて この海の底まで

岸辺には待ち人 窓辺にはリコリス

変わらずに歌えば 高く帆を上げれば

朝をひらいて太陽を望んだ

あなたの指先に風が吹いている

 

コードもあり、14の自分なりにがんばっている。青いという域を出ていてもはや恥すらなし。以下に仕掛けの回想。

 

アレゴリーが多く、真ん中の「la」っていうところから波紋状に言葉が対応している。ギリシア神話がベース、舞台は地中海。「リコリス」は「わたし」がリュコーリアスという金髪の水精ニンフ(海底洞窟在住)であることの寓意、「木星」はもちろんゼウス。地中海に海底洞窟ってそんなにあるのか、あまり知らない。

「天球に七つの星 鳩を追う狩人」はプレイアデスとオリオン。プレアデス星団は地中海における航海の時期の星。「火酒」はここではラムのこと、「舶刀」とはカトラスのことで、このあたりのむずかしい言葉はスティーヴンソンの『宝島』で知った。以上によって、「あなた」は海賊船の航海士。

つまり、リュコーリアスによる航海士への恋慕の歌ということになる。「青いベリル」とは海色の緑柱石=アクアマリンのことだが、この宝石はむかし航海の無事を祈るのに使われていたとか、海底の水精の涙であるという神話があるとか(当時はそういうことで頭がいっぱいだった)で、この二人を結ぶのに格好のモチーフとしてある。

大枠の展開としては、夜=航海士の死に始まり、朝=航海士の誕生で結。半永久的な生を持つニンフがそれを見ている。航海士は「生まれては還」ってまた航海士になっている?わけなのでそれなりに徳を積み人間に転生し続けているのだろうが、なぜここだけインド由来の世界観なのか。いや、もしかしたらとくに輪廻転生とかではなく、死ぬ航海士と生まれた航海士はまったく関係ない可能性もあるけど、だとしたらリュコーリアスは気が多すぎ、水夫ならだれでもよしの風になる。ニンフっぽくはあるが。

また「宴の後に舞え しとど愛を謳え」(これはさすがに赤面もの……)が『饗宴』のことなので、この行と対応する「胡蝶」がプシュケー。船に蝶がとまるのは、三島由紀夫潮騒』にあるとても好きな台詞から。じゃなかったかと思い、いま調べたら合っていた。ここでプラトンと三島を結んでいるので、むろん「宴の後」は三島にもかかる。このあたりは衒学が過ぎるが、文脈に層をつくる行為を純粋に楽しんでいた記憶がある。

「薔薇の赤色」と「夕陽がどれだけ沈んでも」は『星の王子さま』から。王子さまがさびしいときに夕陽を見るという描写が好きで、そこをかけた。

わかりやすい元ネタがあるのはこれくらい。あとはぼちぼちいろいろあって、タイトルと最後の歌詞が対応しておしまい。